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Relation Entry

百友夜行

あれぇそういえば自分にもブログってもんがあったんだなぁすっかり忘れt

こちら、百合根P様の作品
「偶像町幻想百景」
について三次創作を書きたくなり、つい、筆を動かしました。
世界観に合っているか等々不安な拙作ではありますが、お読みいただければ幸いです。

続きからどうぞ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

残暑。
九月も今年のお役目を半ば果たしたというのに、
例年以上の猛暑はまだまだこの偶像町にこびりついているようだ。
軒先を八歩歩けば汗が出る、そんな感じで。
といってもここ最近は、夜になれば涼風と共に虫の音を楽しめるのだが。

最後の土産だと言わんばかりに頼りない蝉の声がちらほら。
普段出歩くことが少ない雪歩はその蝉の名前を知らなかったけれど、物悲しげな響きは心に留めることにした。
覚え書きを机の中へしまうと同時に、通りでやおら物音がし、次いで店番をしている娘の声。
「お友達が来ましたよ」と。



 「家」のことを知ったのは、物心ついて少しあとのことだった。
 何にでもおびえる性格はこの時に根付いてしまったのかもしれない。
 澄んだ童心、と呼ぶには聡い子であったせいか、父親に付き従う百の怪異をなんだか怖いものだと思ってしまったのだ。



「お茶を一杯、いい?」
茶屋「萩原」の二階、暑さをしめ出した雪歩の部屋で、千早が力なくお願いをする。
無論出すつもりであった二番葉の氷出し冷茶を茶碗に注いでやると、あっという間に飲み干してしまった。
雑味がなく、すっきりと飲みやすいからだろうか。とん、と置かれた碗には半年越しの雪氷が残るのみである。

「あ、あの、千早ちゃん?」
「なに?」
「耳が出てるよ」
慌てて顔を赤らめ、犬らしき耳をひっこめる千早。人でないモノの証だ。
「これは、外と違って涼しいものだから、つい‥‥ね」
その通り、この部屋だけは体力のない主のために大きな氷塊が置いてある。
そんなことを毎日続ければ、民家の氷室の氷などはたちまち消えてしまうはずなのだけれど。
二、三ヶ月の夏を耐え凌いでなおどっしりと構える冷気の塊は蓄えの大きさを表すものなのか、それともその物体そのものの異常性を示すのか。
数えるほどの人しか預かり知らないことである。
そもそもこの部屋に入ってくる存在など一握りであり、その内の一人、如月千早が来た理由について萩原雪歩は思う節がないのであった。

「それで、ご用件は?」
そう話を切り出した雪歩に、先ほどとは打って変わって真面目な顔で千早が返答をする。

「ええ。”萩の原の百鬼夜行”、勿論やるでしょうけれど、今年もお願いしようと思って」
それって、つまり。

「家元の座は、去年あなたが受け継いだんでしょう?」
そうだ、十六の誕生日に。

「だから、あなたの初仕事。頼めるわよね」
決定的な冬の日を思い出していた雪歩は、目の前の現実へと引き戻された。
「そ、そんな――まだ私はっ」
「あら、まだ私は――なんだというの?」
威圧的な物言いに拒否の言葉が詰まる。
「お願いしに来たのはそのこと。是が非でもやってもらわなくちゃ」
言うだけ言い切った後、ふとやわらいだ口調で続く。
「ごめんなさい、押し付けるようで‥‥でも、このお仕事の大切さは分かっているでしょう?」
はい、と確かに言ったはずの空返事は、先程詰まった拒否に押し返されて。
「怖がる必要はないわ。どうしても無理なら、先代、お父様のしていた通りに手順を踏むだけでいい」
そんなの、ダメダメな私に出来るなんて思えない。



 偶像町は、人が住み、人でないものが棲む町。
 その仕切り分け、昼と夜の住み分けを古くから行ってきたのが萩の原のお家――萩原家だった。
 人に仇なす妖を斬り退治する家があれば、人に仇なさぬよう妖を鎮める家がある。
 具体的に言えば、街中に溢れるはずの有象無象を、儀式を執り行うことで日中に限り、付き従えるのだ。
 それこそが”萩の原の百鬼夜行”。萩の原とは、町から外れた萩茂る丘のこと。
 そこで毎年のお勤めを果たし、日中の町の姿を守るのが、萩原家十代目家元、萩原雪歩のやるべきこと、ではあるのだが。



「だって、怖いんだもん‥‥」
やっと本音が出てくれた。言ってしまえばそれだけだが、超えるには勇気のいる壁。

この十年ほど、父が”仕事”をするところを見てきた。
萩一面の原っぱを前に仁王立ちしている父、集いし百の鬼達は父が指すままに夜を行く。
それが雪歩にはこの上なく、たまらなく恐ろしいのだ。
妖を見れば、その歪んだ双眸が、貴様のような小娘には従わぬ、機が来れば喰ってやるぞと脅しつけているような気がして。
ついに来てしまったこの日をひたすらに恐れていたのだ。

睨めつけていた妖の両目が、こちらを覗き込む千早のものに重なる。

「大丈夫よ、萩原さんの身は私が守るわ。それとも私じゃ不安かしら?」
声色は優しげなのに、思わず目を逸らした。違う、千早ちゃんのことは信頼してるよ。だけど‥‥。
「そ、その、私‥‥失敗しちゃったらどうしよう、って」
思わず声が上ずる。暑くないはずの部屋で、手が汗ばんできた。
「町の人の生活だってかかってるし、それにあずささんや、四条さんにだって迷惑が‥‥」
それらが言い訳に過ぎないことは重々承知しているし、尊敬すべき人の名前を挙げてまで臆病を隠したがっている自分が恥ずかしくなる。
そんな雪歩に心の中でため息をつく千早が、
「とにかく今夜、絶対に来て欲しいの。いい?」
投げかけた締めの言葉に、雪歩は頷くことしかできなかった。
やらなきゃ、私がやらなきゃ。
覚悟を決めかねていた雪歩が、千早のお暇に気づいたのは部屋を出る時だった。





まずは準備が肝要なのだけれど、唯一頼れる父は母ともども先日から遠出をしている最中。
そもそも萩原の新しい家元は、初仕事を一人でこなすのが慣習であったから。
さて、まずはお供え物。
秋の月夜に捧げるべきは、山と積まれた満月のような団子がよいと相場が決まっている。
いつの間にか切らしていたお団子を買いに駆け出した雪歩‥‥

「閉、店‥‥?」
甘味処「浮舟」は珍しく店じまいをしていた。
おそるおそる扉を叩くまでもなく、軒下に下げられたのは「仕込み中」ではなく「留守」の看板。
いや、しかし、今日に限ってそんなことが‥‥
日傘と巾着を抱いて、途方に暮れる雪歩の後ろから走り寄る足音ひとつ。
「ゆっきほー!久しぶりー!」
「ひゃあうっ!?」
飛び上がって振り返ると、一陣の風に揺れるリボンが二つ。
赤い着物姿で天海春香がそこにいた。手に抱えた二つの箱の中身は、偶然か、雪歩が探しているものだった。
「じゃじゃーん!お団子作ったんだよ、お団子!雪歩も食べる?」
そう言って差し出されたのは、白の地に焼き目も新しいお団子三つ。
「お団子!?春香ちゃん、十四個もらえるかな!?」
「えっ‥‥そんなに好きだったっけ?」
こめかみに指を当てる春香。しまった、怪しまれないよう弁明をしなければ。
「あ、えーっとね?お客様がたくさん来るから、その‥‥」
あながち間違ってもいないだろう。
閉じられた店舗の入り口を見、ああ、と合点のいった春香は、容れ物がないからと箱ごと渡してくれた。

話をするためにも、通りの長椅子に腰を下ろす二人。
「ところで、どうしたの?いつもより元気ないみたいだけど。何か悩みとか?」
そうだ、こんな心細い状況を、一人でいいから打ち明けてみたい。例えば目の前で串団子を頬張っている親友とかに。
秘密の一切をおくびにも出さぬよう、言葉を選びながらではあるけど、話してみよう。

「‥‥春香ちゃんは。何かをやる時に、失敗したら、って思うことない?」
「例えばどんな?」
「うん。その、大げさかもしれないんだけど、世界を救う‥‥みたいな」
笑われるかも‥‥と脳裏にちらついた考えは杞憂で、隣を見れば一生懸命に悩む春香が頬を掻いている。
「つまり雪歩はプレッシャーに弱いわけだ?」
まあ、そんな感じだね、とつい言葉を濁してしまう。
「じゃあ、私のために頑張ってよ!」
「え‥‥春香ちゃんの?」
「そう。世界を救うとか、みんなのためとか、そういうの重すぎて考えられないんじゃないかな?
 それだったら、大切な誰かのためって考える方が雪歩には似合うよ、きっと」
「大切な人の、ため‥‥」
春香ちゃんや千早ちゃんのため、かぁ‥‥。

何かが変わり始めた雪歩の顔を見、これで一安心だと春香が腰をあげる。
「‥‥うん、雪歩もなんだか忙しいみたいだし、私行くね!」
「また、ね。お団子ありがとう」
「いいのいいの!その代わり、また雪歩のお茶が飲みたいなー、なんて」
「いつでも来てね、春香ちゃんなら大歓迎だよ」

新しい団子を取り出しながら来た時と同じように駆け出す春香。
消え行く背中に手を振りつつも、ふと生じる疑問がひとつ。

春香ちゃん、夏が終わる前に町を出たんじゃなかったっけ?

ならば、今さっき励ましてくれた親友も。
腕に抱えた手作りの団子も。
全て残暑が見せた蜃気楼だとでもいうのだろうか。

ま、

いいか。





日もとっぷりと暮れ、雲の切れ間から初秋の満月が顔を出す。
昼間の熱気とはうってかわり、なぞるような夜風が背筋に寒気を運んでくる。
押し寄せる空気のうねりが萩の海を刻一刻と往き過ぎ、どれ一つとして同じ紋様は描かれない。

萩の原にぽつんと立つ狸岩への供物、確認。
祭事用である無染の絹衣、確認。
遠巻きに見守ってくれている千早ちゃん、確認。
頑張れ私、負けるな私‥‥よし、始めよう。
こわばる指ではあるけれど、少女は呼び笛を口元まで運び、思いっきり吹き鳴らした。
人には聞こえない、始まりを告げる音が町の外まで広がり、人を遠ざけ、夜の生き物を誘い寄せる。

月の光が翳り出したのは、恐らくは雲の影に入ったからではないのだろう。
程なくして原っぱを埋め尽くしたのは優に百匹を超えるあやかしともども。
先代の業も今宵限りが刻限であり、この先一年の契約をあの満月が沈まぬ内に終えねばならない。
それが、萩原家十代目家元、萩原雪歩のやるべきことである。

妖達のうちでも、筋骨隆々、威風堂々、長たる力を持った鬼が前に進み出た。
「旧き萩原との契りによりて仕った!!新たな萩原よ、貴様の名は!!」
人ならざる声が萩を振るわせる。堂々たる怒気が夜風を止める。突き上げた掌が天上の月を地に貶めんと開かれる。
「わ、私は――」
その声は、その有り様は充分すぎる程に少女を威圧したはずであったが。
「私は、萩原十代目‥‥あなた、あなた達を縛る者です!」
しかし目的を抱く少女のまなざしは震えながらも折れることなく。
今年もあやかしどもは、くびきを解き放つ鍵たる「名前」を手に入れずじまいであった。

萩原雪歩はたった一言でこの先一年の安寧を勝ち得た。

やれやれと後ろの仲間を見渡す鬼。
雑多な群れから聞こえてくるのは、こんな小娘に、やら、情けないぞ、やら。
染み出すようなけたけた笑いは嘲笑か、それとも自嘲の嘆きか。
それらが静まるのを待って、長たる鬼は仕えるべき少女の面を再び仰いだ。

「よろしい。先代は我らに従者であれと命じた。新たな萩原よ、我らに何を求む?」

従者。
百の鬼を従えるなど、少女には荷が重過ぎる。
それならば。
時に仇なし人を傷つける存在であろうと。
「お願いがあります」
春香ちゃんや、千早ちゃんのように。
一緒にいるだけで温もりを覚える存在。
気持ちのいい陽だまりのような存在。

「友達に、なってくれませんか?」
そうなることはできないのだろうか?








永遠とも思われるような静寂。

唖然として声も出ないのは、そこにいる存在全てがそうだった。

「友達、と?そう仰ったか?」
「はいぃ‥‥」
信じ難いと尋ね返せば消え入りそうな声で肯定する少女。
一つ間違えば夜闇に跳梁跋扈せん我らを、人の世界を蝕みかねない我らを、友に望む少女。

弾けるように萩の原全てが笑い出した。いやはや、痛快痛快。愉快だ!
なあ、仲間達よ、笑うしかないだろう!数代にも及ぶ怨敵にこんなことを言われたのだから!
当の少女は笑い声に戸惑い、おろおろするばかり。
「いいのだな?そこな隠れた犬ころのように、大人しく牙を収めてよしとするだけの物どもとは限らんのだぞ?」
念を押す。これでも尚戯言を続けるなら付き合ってやろう。
「はい、その時は退治しちゃいます」
更なる戯言が飛び出てきおった。
はは、はははははは!よろしい!
「しかと承った。この夜再び迎えるまで我ら、新たな萩原の友となる!」
それでは今宵の夜行は友のため、祭りのごとく楽しいものにせねばなるまい。





町外れのお社に、人影三つ。
「ほら、私の言ったとおりでしょう?」
さもありなんと微笑むのは、この町を見続けてきた存在。
「今回ばかりは致し方ありませんね」
仇なす者を斬らずにすんだと、ほっと胸を撫で下ろすお社の主。
「私の自慢の娘ですから」
笑顔でそう言いつつも、娘の所業に一番驚いているのは一人の父親。

「さ、それでは萩原の茶をお召し上がりください」
淹れた玉露を、どう見ても年下のように思える二人へ、大の大人が恭しく差し出す光景は当人達にとってごく普通のことで。

「ちょっとお待ちになって‥‥これは、お囃子?」
その言葉にふと耳を澄まさば、吹き込む夜風に乗って流れてくる笛や太鼓の音。
てんでばらばらな音色は、それでも愉しげな祭りの光景を想起させる。

興が乗ってきたあずさは、少しいじわるがしたくなった。
「おいしいお茶もあることだし、水羊羹でも食べたいわねぇ」
「ええ、丁度三切れありましたから、お持ちいたしましょう」
といって奥の方へ姿を消す貴音。勿論あずさの意を敏感に汲んでのことだ。
貴音が三切れあると言えば、帰ってくる誰かのための四切れ目はないことになる。

ついぞ出し損ねた茶請けの団子を持て余しつつも、父親は祭り囃子に耳を傾け、はっとした。
久しく聞かなかった、娘の笑い声が聞こえたかもしれない。

< 了 >
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